私は人生で一番大好きだった人と結婚することはなかった。

失恋に苦しむすべての人と過去の私へ、失恋供養です。

2-3「生きる」

怒涛の一日が終わり、茜は休憩室のパイプ椅子に腰かけていた。

体に身に着けた仕事道具をほどきながら一日の終わりを噛みしめる。

 

「はー、終わった」

 

うつろな目の端に捉えた男がこちらに歩み寄ってくるのが見える。

 

「お疲れ~っす」

「うざい」

犬飼の浮ついた声にすかさず茜は反応した。

 

「いやいや、お前俺の事嫌いすぎ。」

「よく分かってるじゃん。」

「茜ちゃんはいつまでたってもつれない」

「うるさい」

 シクシクと泣くようなジェスチャーをとる犬飼を無視して、茜は退勤処理を済ませる。

 

「てか、今日茜元気なかったね。」

突然の言葉に少し油断した茜は、犬飼の言葉へ反応することが出来なかった。

友里さんといい犬飼といい、個々の人たちは他人をよく見ている。

いつも通りの振る舞いだけではいつも通りを補えないほど、私が壊れていることを実感する。

 

「もうね、超元気ないの私。」

「え、うそ、俺のハグ必要なやつじゃない?」

 茜から出た言葉は正直な気持ち。普段は喧嘩ばかりの2人であるが、茜にとって犬飼は貴重な同期であり店舗の中で唯一気を許して話の出来る相手でもある。飾らず、弱音を弱音としてぶつけられる相手がいる事に少しほっとしながら、隙を見せればいちゃつこうとしてくる変わらぬ犬飼のスタンスに少し笑みがこぼれた。

 

「ふふ、ほんと懲りないな」

「ま、茜の事大好きだし?」

「はい、はい、ありがと」

 

*****

 すっかり日の暮れた空に、観覧車のイルミネーションが眩しいくらに映える。

「やっと一日終わった…」

そう独り言をつぶやきながら帰路につく。

 

今日を無事に乗り越えたことは茜にとって誇らしかった。

いくら仕事に没頭していたとはいえ、ふとした事で心が苦しくなる場面がたくさんあった。

 

先輩が旦那さんの話をしていると自分はもう結婚できないのだと、私があんなに結婚したかった人はもういないのだと我に返った。

目の前でカップルや若い夫婦が買い物を楽しんでいると、無意識に慎太郎との多くのデートと重ねて胸が刺されたように痛んだ。

慎太郎と似ている人を見つけて、心臓を握りつぶされたように動けなくなった。

 

もう自分の手に戻らない幸せが世の中に溢れかえっているのに、取りこぼしてしまった自分自身が憎くてたまらない。いるはずのない慎太郎をいつも視界のどこかで探しては、別れた現実を頭から引っ張り出して心を矯正していく作業を無限に繰り返している。

 

 

私、いままでどうやって生きてたんだろうな。

 

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