私は人生で一番大好きだった人と結婚することはなかった。

失恋に苦しむすべての人と過去の私へ、失恋供養です。

2-1「1日目」

恋をすると世界は輝く。

 

目覚めた時にこの世界に満ちている空気、鳥のさえずり、いつもと同じ道や太陽の光、すべてがみずみずしく新鮮で今までとは違う輝きを放つ。

 

それは恋を失っても同じ

 

いつもと変わらぬ自宅、玄関のドア、早朝のひんやりとした空気と外に出て目に入る空の色、何一つ昨日のそれと変わらないのに重い孤独感が茜にのしかかる。目に見えない漠然とした不安と窒息しそうなほどの息苦しさをひたすらに感じながらそれでもいつもの道を歩き出す。

 

何気ない顔でたくさんの人が作る駅のホームの列に加わる。

世界はなんて無意味なんだろうと感じることしかできなかった。そう感じては心に空いた黒い穴に心臓が吸い込まれるようなキュッとした感覚に襲われる。

 

慎太郎はもう私の人生にはいないのだ。彼の彼女じゃない私という現実を反芻しては、目の前がブラックアウトしそうである。それなのに世界は、何も変わることがない、いつものように朝と昼を入れ替えながら人々の営みは滞りなく回っていく。そして彼の人生も私という存在を切り離したままでこの先の長い時間を進んでいくのだ。それだけが今目の前に横たわる事実であり、何よりも残酷な現実。

 

こんなに自分が世界にとってちっぽけで取るに足らない存在なんだと実感したのは、初めてのことだった。

 

「もっと泣きつけばよかった?」

「会ってほしいとせがむべきたった?」

「みっともなくあがいて、あがいて、別れなんか受け入れてやらなければよかった?」

 

今となっては何が正解でどうすれば良かったのかなんて分からない。自分にとっても、慎太郎にとっても。

 

 

店の控室のドアを開けるといつもと変わらない顔ぶれが揃う、茜の勤める店の早番はこの大きなショッピングセンターの中で一番だ。ほかの店舗が開店準備を始め出す2時間も前に出勤しなければいけない。まだ薄暗い街を抜けて早番のシフトの人々が集まってくる。

 

どんなに理不尽なことがあっても、彼氏に振られても、すべてが無意味だと思っても、

それでも世界が正しく、昨日と同じように回っていることがいつもの自分を表面に張り付けて、何事もなかったように自分を取り繕うことを可能にするのかもしれないとその時ふと思った。

皮肉にも変わらぬ毎日に少しだけ救われた気もする。

 

その日茜は、いつもより少し大きな声で1日目を始めることにした。

 

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